記憶が保てるように

主に舞台や本、映画などエンタメと日常の話

最近読んだ本/2021.8-9

 

今週のお題「読書の秋」らしいので、乗っかりつついつも通りのごちゃまぜ読書記録。

 

記憶に残るキャラクターの作り方 観客と読者を感情移入させる基本テクニック

ハリウッドで脚本コンサルをしている著者によるキャラメイク本。登場人物の基礎情報を紐解く際に1、身体面(年齢性別、姿勢や歩き方、遺伝など)2、社会面(階級、職業、宗教、政治的関心など)3、心理面(性生活、倫理観、フラストレーション、人生態度など)の3方向から掘り下げていくという話が興味深かった。特に心理面の項目は、これらが元になって身体面・社会面の項目に通じていくんだろうな。既存の作品にあてて考えるだけでも楽しいやつ。

あと、役者にセリフをたっぷり語らせたいなら、漫画<映画<舞台の順に適しているという見解の記載があり、舞台ってやはり文芸に最も近い3次元表現だと再確認。そして、“嘘”の占める割合が高い(想像の余白がある!)表現形態でもある。と、映画の本で舞台のことを考えてしまった。。照

 

脚本の科学 認知と知覚のプロセスから理解する映画と脚本のしくみ

脚本の話、ではあるものの認知科学要素が強め。完全なるお勉強だった。笑 目の錐体・桿体の機能の説明を読んでから映像のアングルやスポットのあて方を見てみると、すべてが精密なパズルのように思えてくる。センスや好みに違いあれど、人体の機能は当然人類共通だから分かっていると強いんだろうな。差はあるにせよ、感覚だけで完成している商業作品はないだろうし、こうして多方面から趣向を凝らされていることを思うとクリエイターに頭が下がる。プロットの基本構造については、もっと色んなバリエーションも知りたい。1冊目同様、こちらも翻訳本なのでやはり文化圏の違いはあるように感じて、この手の国内版のテキストがあれば知りたい。そのうち調べてみよう。

 

彼女は頭が悪いから

事件当時の報道を思い出すだけでは足りず、記事を今一度見返した。自分がそうした行為こそが、この話が小説として書かれた意義にそのまま繋がってることは間違いない。「あのこは貴族」の映画を観たときにも思ったけれど、学生時代を地方で過ごした私は東京の階層社会、学歴差別を肌であまり感じず生きていた(そもそも競争の激しい、能力主義的な「選ばれた」コミュニティにいたことがないから、社会に組み込まれている実感がなかった)。今東京で20代社会人女をやっていて感じるあらゆる違和感も、学生時代に感じるそれとは性質が異なるはず。学生ならではの全能感(本来こそばゆくも肯定的なフレーズのはず)が、無邪気で残忍なふるまいを後押ししたことは想像に難くない。

 

そして、バトンが渡された

親と子をめぐる話で自分がこんなに素直に泣くと思わなかったな。離婚歴のある家庭の子に対して世間が勝手に押し付けてくるバイアス、ステレオタイプを、柔らかくもはっきりと否定している。家族、親子だからというよりも、こんな他者がいたらどんなにいいだろうと思う。この手の話は、あまり説明するべき内容ではないですね。

 

愛されなくても別に

この二人の未来に幸あれ、と思うばかり。しかし直近で観た映画「君は永遠にそいつらより若い」もそうですが、現代の社会課題を捉えた作品が「大学生」の視点であるということが、なにか一つの鏡のように感じていて、それがなんと的確で、なんとつらいことかと、思わずにはいられなかった。

 

うちの父が運転をやめません

タイトル通りの話であり、発売のタイミングからも2019年の暴走事故を受けて生まれた話なんだろう。高齢ドライバー→介護の話にも発展していく訳ですが、このテーマに無関係な人は少ないんじゃないか? この物語の主人公(男性)は親の心情をよく考えているし、親の暮らしをよい方向に持っていくため前向きにアクションしていて単純にすごくイイやつなんだよな。そして配偶者の理解を得ることもできている。自分自身まだその問題には直面していないけれど、実際の多くはこのようにいかない……というのは分かる。よく言う、運転をやめない親に「バスや電車を使う生活も健康的だよ」という提案は、やっぱり田舎の中の都会の選択肢になってしまうんだよなあ。

 

私は自分のパイを求めるだけであって人類を救いにきたわけじゃない

なんの知識がないところからでも韓国の近代フェミニズムを1から学べる、とてもよい本だった。文中の韓国時事ワード一つ一つに対し、日本人向けにかみ砕かれたキャプションがついていて読んでいてストレスがないのが嬉しい(こういう、分からない言葉が章末とかに固まっていても結局見なかったりするからね、、)。原文は読めないわけだけど、これはきっと翻訳がすごくうまいのでは、と思えるほどニュアンスの表現がいい。クールでパンチがある文章で読んでいて心地よかった。

 

 

 

近ごろ慣れないことばかりしていて、ぱたぱたと時間が過ぎていた。なんだかんだ毎月書いてるこのブログだけは更新するか、と思って書いたけど、個人的な文章って楽しいな。癒される。社会的な顔をしていない、“ため”になることを目的としない、他人のほうを向いていない。自分が今読みたいのはそんな文章だったりする。

 

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