記憶が保てるように

主に舞台や本、映画などエンタメと日常の話

ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』

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東京公演の2日目を観たよ。以下、肯定的な感想ではないので自衛お願いします!

 

全体の話

まとまりがなく散漫な印象だったな、というのが率直な感想になる。ストーリー進行や台詞の運びがどことなくガタついていて違和感があり、シーン同士の接続がスムーズじゃなかったように思う。特に1幕は、宙ぶらりんなまま時間が過ぎていくように感じた。舞台や映画は特に、序盤の引きの強さがクオリティのキモになると思っているんだけど(はじめの印象ってその後なかなか覆らない)、この舞台は前半が冗長で勿体ない。段階的にボルテージが上がっていくような追い込みも特に感じず、シリアスなストーリーだからこそ何らかのギミックや緩急が欲しかった。

また、人物描写に関して情報が少なかったのも気になる。行動に対する根拠が作中であまり表出されていないため、歌唱で劇的に感情が爆発するような唐突さを感じた(ミュージカルってそういうものと言われたら、そうなんだけど……)。

ところが2幕後半から展開が急激に加速。勢いがあっておもしろく、前半とイメージが変わったので終演後の感情が迷子になった。。

 

楽曲やキャストなどについて

楽曲について前知識を入れずに観たから、けっこうロック調(ジャズや6/8拍子もあったね)というか激しめで驚いた。この曲だからこのキャスティングなんだな、と納得した部分はあったのだけど、役を表現するミュージカルというよりアーティストライブのような印象も。

私が観た日は、加藤(アンダーソン)・木村・堂珍の組み合わせ。万里生くんのソロもうちょっと聴きたかった! 王道なロイヤル貴公子系の役柄しか観たことなかったけど、どの配置でも安定感があるのはさすが。JTR版のルキーニですね(本当に微かにだけど、この作品キャラとか楽曲がなんかエリザっぽさない……?笑)。達成のことはあまり客観的に見られなくて逆に感想が書きにくいんだけど、やっぱり演技が好きだった。フィジカルな話になるのか、歌声がもう少し太くなれば突き抜けるような気がしています。

ちなみにこの舞台で一番いいなあと感じたのは、舞台装置や道具かもしれない。多分、今まで観た舞台の中で一番ずっと床が荒れてるw カテコの爽やかな挨拶中も床が血濡れていてちょっとおもしろかった。血飛沫を汚れた新聞の山で表現したのは秀逸だったし、臓器や死人の人形も説得力があったな。日生劇場で内臓見たの初めてだよ!

 

題材について

1888年の事件だと知って、自分は思ったより最近だなと感じた。近ごろ、過去の事件・事故を扱う作品がそのできごとを“歴史”として見る境目がよく分からなくなってきている。JTRなんて、これまでも数々使われてきた題材だとは分かっているけれど、実在したフェミサイドであることには変わりないんだよなぁ。そういった題材を下敷きにした作品が、事実に対してどう向き合って表現しているかということは視点の一つとして考えていきたい。

 

柿喰う客『滅多滅多』

 

柿喰う客15周年の本公演『滅多滅多』を本多劇場で観ました。15年……修二と彰の「青春アミーゴ」の頃からこの人たちもう演劇をやっていたのかと思うと、雲を見上げるような、頭が下がるような。ふしぎな気持ちが沸いてくる。柿喰う客は今年、新たな7名のメンバーを迎えたんですね。このタイミングで、どれだけ覚悟のいることか。よく決断したなと思う。それも、約20名の集団に7名も増えるんだから随分思い切った。一般企業の採用なら、まず非現実的な数字。中屋敷さん自身が「最悪のタイミング」だと笑った逆風の中、いま演劇で新しいことを始めようとする人たちを、純粋に観たいと思った。

 

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 この新作は、小学校を舞台にした“ホラー・スリラー・ミステリー”。 ホラーと聞いて構える人もいるかもしれないけど、特段ホラー要素に振り切った作品だとは思わなかったです。むしろ柿の芝居って、普段からある種の人間ホラーなのでは。滅多滅多、入口としてはポップで取っつきやすい。 

出演者は総勢20名と大所帯。オトナ、コドモ、そしてフシギ(=学校の七不思議)の3チームが絡み合い、話は展開していく。次々とキャラが登場し、加速するスピード感の中混沌に巻き込まれていく流れは、小学校ホラーものの醍醐味。怖いけど楽しい、楽しいけど怖い、お化け屋敷のような高揚感がある。ちょっぴり抜けてるフシギチームはゴレンジャーのようで場が和む(大村わたるさん、いるだけでひょうきんだから偉大だ!)。

 とはいえ中屋敷脚本、素直に楽しいだけで終わる訳はなく。コドモたちの小さな体の中をうごめく感情、その根源となるエピソードは次第に紐解かれていく。足場を180度ぐるんと回されるようなラストに転落したとき、“ホラー・スリラー・ミステリー”の要素のうち、最後のひとつが色濃く残った。観劇後の余韻は不協和音。怪異よりも人間がおどろおどろしく描かれるのが、中屋敷さんらしかったな。

 

印象に残ったキャストについて少しだけ!なんといっても田中穂先さん。いよいよ化け物じみてきていてニヤニヤしてしまった。舞台上での恐ろしいまでの存在感。その演技、声、身体性で劇場内の空気が全部埋まる。なんだか誰も信じられなそうな滅多滅多の世界で、彼がいると彼を中心に物語を解釈したくなるような、共感性がある人。滅多滅多では、そんな善良な空気が色んな意味でうまいことはたらいていてよかった。劇団初期のメンバー以外に田中穂先のような役者がいることは、柿にとって希望なんじゃないかな。

そして新メンバーの沖育美さんもよかった、美しかった。加入したばかりとは思えないほど既に安定感があって、自分の色を確立しているように見えた。役に染まらないというわけでなく、役を表現しながらも独自の空気感がにじみ出る。しかもその個性が、柿の中でもハマっていてイイ。そそる美少年でした。長尾友里花さんとの少年役の対比も含めて最高だ。

葉丸あすかさんは、女声であることを加味しても、発声が群を抜いてクリアで感動した。葉丸さん演じる学校長は、滅多滅多の世界で天井となる存在だけど、そんなハードルをいとも感じさせない超然とした芝居に唸る。背中のでかさに惚れた。

 

youtu.be

 

正当な関係ってなんだろう、と思った。たとえば教師・生徒という関係から「学校」の枠を外すと、そのシルエットは途端にいびつなものになる。それではかたや、子どもと子どもが“関係”するのに理由は必要ないんだろうか? セクシャルな目線なくしては柿喰う客の脚本も語れない。「人間である限り我々は常に欲望する。同時に欲望される側でもある」、中屋敷さんの脚本からはいつもそんなことを感じる。平等な加虐性をもって、性差の不均衡をねじ伏せるようなクレイジーな演劇。稀有な書き手だと思います。

ミュージカル『ウェイトレス』 ある春の観劇

 

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3月のゆる感想。

歴史ものじゃないミュージカルで、“女の人生“をこうも正面からくらったのって初めて。妊娠、出産、結婚、DV、W不倫……女の人生のオンパレードみたいなミュージカルなので笑、経験によって感じ方は違うかもしれない。フィクションだからといってオブラートに包まない、ある種エグみのある脚本も含めて。でも、その生っぽさがあるからこそ、描き出す救いが一層輝いて見える。自分自身、あと10年後くらいに観劇したら、それはそれでまたぜんぜん違う印象を抱くかも(より味わえるかも?)しれない、なんてことも思った。

 

日常ベースの物語だけに大がかりな仕掛けはないのだけど、観客を退屈させないし飽きさせない演出、細部にエッジが効いててよかった。アンサンブルを使ったアナログで遊び心のあるモーション、メリハリのある空間の使い方、あとスマートなセットチェンジ(けっこう転換が多いのに全然ばたつき感がなくて見事!)も。いろいろと細やかな工夫があって、仕事が行き届いてるなと感心した。スタッフもそうだし、この作品は出役の人数が少ないからアンサンブルメンバーもさぞ大変なんじゃないかな。

 

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ロビーにしれっと置いてあってよかった。

主人公ジェナを演じる高畑充希さん、絶妙な世慣れ感と人生の倦怠をうまーく共存させていて、よすぎた。仕事ができるしクレバーで、仲間に優しいお姉さん。だけど、がんばりすぎるから人に見せないところでちょっと脆い。(こういう女の人って、実際にもけっこういるよね!涙)ジェナは終始本当に出ずっぱりで、歌だけ見ても彼女一人で全体の6割以上歌ってるくらいの勢いで大忙し。充希ちゃんの、柔和で感情表現に富んだ特徴的な声は、オンリーワンの持ち味という感じがするなあ。センターが似合う。

 

宮野真守さん演じる、産婦人科医ポマターもとっても良かった。ああいう……悪気なく優しい憎めない、ゆえにクズな人()も、またいるんだよな~!笑 メイン二人のキャスティングは相性もよかったのではないかと。シングルキャストなので比較しようがないけれど、高畑ジェナと宮野ポマターの絡みは、なんというかギラギラの攻め合い感が強くてわらった。ぐっちゃぐちゃの絡みシーンでパイ作りのワードを引っ張ってくるのは秀逸すぎるでしょ。あと、おばたのお兄さんが飛び道具的な立ち位置を見事に演じきっていて拍手! 全シーン通しても、客席が一番わかりやすく盛り上がっていたのはお兄さんのシーンだったんじゃと思うくらい。(これまでもミュージカル出てたのかな?)これからもコメディもの出てほしいな~。

 

コミカルでキュートな宮澤エマちゃんのドーンも、ミュージカルが初めてとは思えないLiLiCoさんのベッキーも、ほんと最高の同僚。夫の不倫を「そんなことくらいじゃ離婚なんてしないわよ」と一蹴するベッキー、別れれば?とつつかれながらも、離婚せず子供は産むと決めていたジェナ。この作品の女たちが逞しくて、いじらしくて。なんか、「なるようにしかならない」って言葉はマイナスな意味じゃなくて、結局「なるようになる」ということなんだよな~と思った。と、ファミレスの会話みたいな感想。笑 昨今多用されがちだけど、ジェナ、ドーン、ベッキーの女同僚3人の、ほどよいドライさと同志感にシスターフッドを感じた。

  

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久しぶりの日生に喜びの舞すぎて劇場ブロマ購入

 

ウェイトレスの宣伝でキャスト3人が出ていたフジ『ボクらの時代』も観た。充希ちゃんが番組で話していた「劇場まで足を運んでくれる層は固定化されていて、もっと間口を広げなければ業界が衰退してしまうかも」という危機感、舞台を愛する人たち(作り手・観客問わず)からすると暗黙の共通認識だなと思った。続いて「自分がTVに出ることで、劇場に新しい層を呼び込みたい」というようなことも語っていたんだけど、まさに今回、自分がウェイトレスの話をついったーに書いたり会った人に話したりしていたら、舞台オタクではない友人たちからチラホラいいな、行きたいと反応があって。ビジョンを実現していてかっこいいなと思った。自分がいま舞台に返せるものってなんだろ、ということを最近よく考える。 

 

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この日、日比谷公園の桜が満開だった〜

 

 

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日生劇場、大好きなんだ〜。劇場としても建築としても。1階の壁のモザイク、上にいくにつれすぼまっていく柱の造形、劇場扉のクリアな取っ手の曲線美、葡萄を模した照明、天井のあこや貝。次いつ来られるかわからないから、ロビーでたくさん写真撮ってしまった。笑 

 

また緊急事態宣言が出てしまいましたね。現場主義の仲間たちを幸せにしたいよ~!