記憶が保てるように

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柿喰う客『滅多滅多』

 

柿喰う客15周年の本公演『滅多滅多』を本多劇場で観ました。15年……修二と彰の「青春アミーゴ」の頃からこの人たちもう演劇をやっていたのかと思うと、雲を見上げるような、頭が下がるような。ふしぎな気持ちが沸いてくる。柿喰う客は今年、新たな7名のメンバーを迎えたんですね。このタイミングで、どれだけ覚悟のいることか。よく決断したなと思う。それも、約20名の集団に7名も増えるんだから随分思い切った。一般企業の採用なら、まず非現実的な数字。中屋敷さん自身が「最悪のタイミング」だと笑った逆風の中、いま演劇で新しいことを始めようとする人たちを、純粋に観たいと思った。

 

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 この新作は、小学校を舞台にした“ホラー・スリラー・ミステリー”。 ホラーと聞いて構える人もいるかもしれないけど、特段ホラー要素に振り切った作品だとは思わなかったです。むしろ柿の芝居って、普段からある種の人間ホラーなのでは。滅多滅多、入口としてはポップで取っつきやすい。 

出演者は総勢20名と大所帯。オトナ、コドモ、そしてフシギ(=学校の七不思議)の3チームが絡み合い、話は展開していく。次々とキャラが登場し、加速するスピード感の中混沌に巻き込まれていく流れは、小学校ホラーものの醍醐味。怖いけど楽しい、楽しいけど怖い、お化け屋敷のような高揚感がある。ちょっぴり抜けてるフシギチームはゴレンジャーのようで場が和む(大村わたるさん、いるだけでひょうきんだから偉大だ!)。

 とはいえ中屋敷脚本、素直に楽しいだけで終わる訳はなく。コドモたちの小さな体の中をうごめく感情、その根源となるエピソードは次第に紐解かれていく。足場を180度ぐるんと回されるようなラストに転落したとき、“ホラー・スリラー・ミステリー”の要素のうち、最後のひとつが色濃く残った。観劇後の余韻は不協和音。怪異よりも人間がおどろおどろしく描かれるのが、中屋敷さんらしかったな。

 

印象に残ったキャストについて少しだけ!なんといっても田中穂先さん。いよいよ化け物じみてきていてニヤニヤしてしまった。舞台上での恐ろしいまでの存在感。その演技、声、身体性で劇場内の空気が全部埋まる。なんだか誰も信じられなそうな滅多滅多の世界で、彼がいると彼を中心に物語を解釈したくなるような、共感性がある人。滅多滅多では、そんな善良な空気が色んな意味でうまいことはたらいていてよかった。劇団初期のメンバー以外に田中穂先のような役者がいることは、柿にとって希望なんじゃないかな。

そして新メンバーの沖育美さんもよかった、美しかった。加入したばかりとは思えないほど既に安定感があって、自分の色を確立しているように見えた。役に染まらないというわけでなく、役を表現しながらも独自の空気感がにじみ出る。しかもその個性が、柿の中でもハマっていてイイ。そそる美少年でした。長尾友里花さんとの少年役の対比も含めて最高だ。

葉丸あすかさんは、女声であることを加味しても、発声が群を抜いてクリアで感動した。葉丸さん演じる学校長は、滅多滅多の世界で天井となる存在だけど、そんなハードルをいとも感じさせない超然とした芝居に唸る。背中のでかさに惚れた。

 

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正当な関係ってなんだろう、と思った。たとえば教師・生徒という関係から「学校」の枠を外すと、そのシルエットは途端にいびつなものになる。それではかたや、子どもと子どもが“関係”するのに理由は必要ないんだろうか? セクシャルな目線なくしては柿喰う客の脚本も語れない。「人間である限り我々は常に欲望する。同時に欲望される側でもある」、中屋敷さんの脚本からはいつもそんなことを感じる。平等な加虐性をもって、性差の不均衡をねじ伏せるようなクレイジーな演劇。稀有な書き手だと思います。