記憶が保てるように

主に舞台や本、映画などエンタメと日常の話

最近読んだ本/2021.11-12

 

スキップとローファー(1)~(6)

おもしろいとは聞いていたけど、あっけなく大好きになりました。。。(両手挙手)あえて平たく言えば「田舎から上京してきた主人公が、周囲に影響を与え、自身も成長していく学園日常もの」になるのかな。主人公のみつみ&志摩くんが手放しに応援したくなる二人であることに加え、同級生のみんなの掘り下げパートが丁寧。群像劇としておもしろい。

カーストとか能力とか容姿に関係なくそれぞれが持っている「他人に知られたくないコンプレックス」の、高校生がゆえのその柔らかさ、無防備さ、みたいなものに心打たれる。さらに、そのコンプレックスの対角線にちゃんと対称的なキャラクターが配置されていて、相関関係の妙!と何度も言いたくなります。

で、この作品を連載しているのが少女誌ではなくアフタヌーンという「…わかるな?」感。笑 アフタのバラエティ豊かさと、確かにアフタだわ…という腑に落ち感がじわじわくる。また続き楽しみな漫画が増えちゃったよ!

 

大蛇に嫁いだ娘(1)

個人的に大プッシュしたい漫画2021です!!

タイトル通り異種間夫婦ものなのですが、この大蛇様(山の主)がいわゆるスパダリ属性の紳士、なんですよね。。しかしながらリアルヘビなので動物をバリバリ食うし、脱皮するし、肉体接触はしたいらしいし……という「怖い!」と「優しい!」の感情がシーソー構造になっているあたりがまぁうまい。

二人の関係をど直球のロマンスにせず、ほのかにおどろおどろしいホラーテイストで描いているあたりがたまりません。巨大生物好き垂涎の、大蛇の肉体描写も見どころ。見開きバーン!での脱皮シーンはぜひ紙で見てほしい。(ちょっと怖くてちょっとエロでヘビなので、万人にはお薦めしにくいのだけど)本当にいいよ〜!

このくらいの時代感、好きなんだよなあ。個人的には蟲師が好きな人とかに薦めたい。試読も貼っちゃう。

 

ムサシの輪舞曲(1)

俺たちのフィーヤンでまーた好みの漫画が始まったぞ(蕎麦屋の息子が、10歳年上の首のすらっとした近所のお姉さんに片思いをする)。河内先生の絵が好きなのでひらすら眼福である。ボストン眼鏡のテーラーの優男が着る、くたっとしたYシャツの曲線~。笑 あとは、あらすじとかでは省かれると思うんだけど「女友達の弟のことが密かに好きな30代女性」が出てくるあたりも大変貴重でよい。

 

ホスト万葉集

めちゃくちゃイケてたし、短歌やりたくなった。。↓好きだった歌(コメントをつけたらうざくなったので注釈にした)。

太陽が沈んだ後の人の波そういう海で僕は泳ぐの*1

よろしくね桃太郎だよよろしくね何も言えないそれもまた僕*2

人を剥き殻を探して閉じこもるそういう街なの孵化などしない*3

「伝えたい 会えない日々が続くから」振込先の口座番号*4

 

主人公思考

コンテンツビジネスに関する話が会社員視点で書かれているので、読者からすると親近感がある。主人公思考=仕事をいかに自分ごとにできるか、だと思うんだけど、これはけっこうどの仕事でも変換できるメッセージだ。主体的にとらえたほうが、だいたい楽しくなる(もちろん自分だけでどうにもならないことはある。。)

前にIP展開を担当している人と話したとき「各所の調整役になって交渉して、みんなにとっての落としどころを見つける仕事」だといわれたことがある。何かと押し切られがちな自分からすると大リスペクトだ。

アイマス黎明期の話は、ギャルゲーに疎い自分からするとコンテンツに歴史あり!という感じで興味深かった。IPを解放していた話は知らなくてびっくりした。あと、↓はゲームのテロップの話なのですがへ〜と思った。音楽でいう表拍と裏拍の感じ?なんかわかる気がする。

テロップなどの文字を印象づけたい時は「偶数秒」、映像のカット割りが気にならず、シーンの流れがスムーズなのは「奇数秒」

 

わかりやすさの罪

ああ、胸がすくような一冊だった。もっと速く、多く、わかりやすく、ロジカルに、共感を誘うように!と、鬼コーチのごとく迫る情報社会の潮流に、なにより自分が疲弊していたんだと思う。

「わからない」からこそ到達したいと願い行う努力こそ、わたしは知性の芽だと思うんだよな。また武田砂鉄さんのいう、本来どちらでもないことを、さも当然であるかのように二択で迫られる政治的誘導への危惧に賛同する。

 

わたしたちが光の速さで進めないなら

アフター6ジャンクションで宇垣アナが紹介していたのを聞いて。韓国SFは初めて…どころか、正直SF自体ふだんあまり読まないんだけど、これはおもしろく読めた。韓国フェミニズムの流れを感じさせる切実なフィクションでもある。

あらゆる感情が商品として売買される世界についての短編「感情の物性」が特に好き。一見遠い話のようで、本質的には感情を求めて商品を購入する場面ってよくあるよな~。感情に形があればいくらか楽だろうか。

自分の憂鬱を手で撫でたり、手のひらにのせておくことができたらと思うの。それがひと口つまんで味わったり、ある硬さをもって触れられるようなものであってほしいの

 

 

 

昨日帰ってきてradikoをつけたら、三宅健のラヂオでクリスマスツリーを買ったという話をしていてうわ~年末だ~とふわふわした。12月の速度に恐れおののいている、、まだ年内に舞台か映画か2021まとめの話を書きたいです!仕事収めまであと少しがんばるぞ。

qooml.hatenablog.com

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*1:水槽の中の鮮やかなブルーの情景が浮かんだ。「泳ぐの」の「の」がせつない。

*2:下の句の、地に足がついた客観性が好き。推したくなるで賞。

*3:「孵化」って言葉にギクッとさせられた後に、「孵化など」と続けるちょっと突き放したニュアンスがすごくいい。

*4:これはコロナ後に寄せられた短歌の章に載っていました。「こうざばんごう」は、七…

最近読んだ本/2021.8-9

 

今週のお題「読書の秋」らしいので、乗っかりつついつも通りのごちゃまぜ読書記録。

 

記憶に残るキャラクターの作り方 観客と読者を感情移入させる基本テクニック

ハリウッドで脚本コンサルをしている著者によるキャラメイク本。登場人物の基礎情報を紐解く際に1、身体面(年齢性別、姿勢や歩き方、遺伝など)2、社会面(階級、職業、宗教、政治的関心など)3、心理面(性生活、倫理観、フラストレーション、人生態度など)の3方向から掘り下げていくという話が興味深かった。特に心理面の項目は、これらが元になって身体面・社会面の項目に通じていくんだろうな。既存の作品にあてて考えるだけでも楽しいやつ。

あと、役者にセリフをたっぷり語らせたいなら、漫画<映画<舞台の順に適しているという見解の記載があり、舞台ってやはり文芸に最も近い3次元表現だと再確認。そして、“嘘”の占める割合が高い(想像の余白がある!)表現形態でもある。と、映画の本で舞台のことを考えてしまった。。照

 

脚本の科学 認知と知覚のプロセスから理解する映画と脚本のしくみ

脚本の話、ではあるものの認知科学要素が強め。完全なるお勉強だった。笑 目の錐体・桿体の機能の説明を読んでから映像のアングルやスポットのあて方を見てみると、すべてが精密なパズルのように思えてくる。センスや好みに違いあれど、人体の機能は当然人類共通だから分かっていると強いんだろうな。差はあるにせよ、感覚だけで完成している商業作品はないだろうし、こうして多方面から趣向を凝らされていることを思うとクリエイターに頭が下がる。プロットの基本構造については、もっと色んなバリエーションも知りたい。1冊目同様、こちらも翻訳本なのでやはり文化圏の違いはあるように感じて、この手の国内版のテキストがあれば知りたい。そのうち調べてみよう。

 

彼女は頭が悪いから

事件当時の報道を思い出すだけでは足りず、記事を今一度見返した。自分がそうした行為こそが、この話が小説として書かれた意義にそのまま繋がってることは間違いない。「あのこは貴族」の映画を観たときにも思ったけれど、学生時代を地方で過ごした私は東京の階層社会、学歴差別を肌であまり感じず生きていた(そもそも競争の激しい、能力主義的な「選ばれた」コミュニティにいたことがないから、社会に組み込まれている実感がなかった)。今東京で20代社会人女をやっていて感じるあらゆる違和感も、学生時代に感じるそれとは性質が異なるはず。学生ならではの全能感(本来こそばゆくも肯定的なフレーズのはず)が、無邪気で残忍なふるまいを後押ししたことは想像に難くない。

 

そして、バトンが渡された

親と子をめぐる話で自分がこんなに素直に泣くと思わなかったな。離婚歴のある家庭の子に対して世間が勝手に押し付けてくるバイアス、ステレオタイプを、柔らかくもはっきりと否定している。家族、親子だからというよりも、こんな他者がいたらどんなにいいだろうと思う。この手の話は、あまり説明するべき内容ではないですね。

 

愛されなくても別に

この二人の未来に幸あれ、と思うばかり。しかし直近で観た映画「君は永遠にそいつらより若い」もそうですが、現代の社会課題を捉えた作品が「大学生」の視点であるということが、なにか一つの鏡のように感じていて、それがなんと的確で、なんとつらいことかと、思わずにはいられなかった。

 

うちの父が運転をやめません

タイトル通りの話であり、発売のタイミングからも2019年の暴走事故を受けて生まれた話なんだろう。高齢ドライバー→介護の話にも発展していく訳ですが、このテーマに無関係な人は少ないんじゃないか? この物語の主人公(男性)は親の心情をよく考えているし、親の暮らしをよい方向に持っていくため前向きにアクションしていて単純にすごくイイやつなんだよな。そして配偶者の理解を得ることもできている。自分自身まだその問題には直面していないけれど、実際の多くはこのようにいかない……というのは分かる。よく言う、運転をやめない親に「バスや電車を使う生活も健康的だよ」という提案は、やっぱり田舎の中の都会の選択肢になってしまうんだよなあ。

 

私は自分のパイを求めるだけであって人類を救いにきたわけじゃない

なんの知識がないところからでも韓国の近代フェミニズムを1から学べる、とてもよい本だった。文中の韓国時事ワード一つ一つに対し、日本人向けにかみ砕かれたキャプションがついていて読んでいてストレスがないのが嬉しい(こういう、分からない言葉が章末とかに固まっていても結局見なかったりするからね、、)。原文は読めないわけだけど、これはきっと翻訳がすごくうまいのでは、と思えるほどニュアンスの表現がいい。クールでパンチがある文章で読んでいて心地よかった。

 

 

 

近ごろ慣れないことばかりしていて、ぱたぱたと時間が過ぎていた。なんだかんだ毎月書いてるこのブログだけは更新するか、と思って書いたけど、個人的な文章って楽しいな。癒される。社会的な顔をしていない、“ため”になることを目的としない、他人のほうを向いていない。自分が今読みたいのはそんな文章だったりする。

 

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ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』

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東京公演の2日目を観たよ。以下、肯定的な感想ではないので自衛お願いします!

 

全体の話

まとまりがなく散漫な印象だったな、というのが率直な感想になる。ストーリー進行や台詞の運びがどことなくガタついていて違和感があり、シーン同士の接続がスムーズじゃなかったように思う。特に1幕は、宙ぶらりんなまま時間が過ぎていくように感じた。舞台や映画は特に、序盤の引きの強さがクオリティのキモになると思っているんだけど(はじめの印象ってその後なかなか覆らない)、この舞台は前半が冗長で勿体ない。段階的にボルテージが上がっていくような追い込みも特に感じず、シリアスなストーリーだからこそ何らかのギミックや緩急が欲しかった。

また、人物描写に関して情報が少なかったのも気になる。行動に対する根拠が作中であまり表出されていないため、歌唱で劇的に感情が爆発するような唐突さを感じた(ミュージカルってそういうものと言われたら、そうなんだけど……)。

ところが2幕後半から展開が急激に加速。勢いがあっておもしろく、前半とイメージが変わったので終演後の感情が迷子になった。。

 

楽曲やキャストなどについて

楽曲について前知識を入れずに観たから、けっこうロック調(ジャズや6/8拍子もあったね)というか激しめで驚いた。この曲だからこのキャスティングなんだな、と納得した部分はあったのだけど、役を表現するミュージカルというよりアーティストライブのような印象も。

私が観た日は、加藤(アンダーソン)・木村・堂珍の組み合わせ。万里生くんのソロもうちょっと聴きたかった! 王道なロイヤル貴公子系の役柄しか観たことなかったけど、どの配置でも安定感があるのはさすが。JTR版のルキーニですね(本当に微かにだけど、この作品キャラとか楽曲がなんかエリザっぽさない……?笑)。達成のことはあまり客観的に見られなくて逆に感想が書きにくいんだけど、やっぱり演技が好きだった。フィジカルな話になるのか、歌声がもう少し太くなれば突き抜けるような気がしています。

ちなみにこの舞台で一番いいなあと感じたのは、舞台装置や道具かもしれない。多分、今まで観た舞台の中で一番ずっと床が荒れてるw カテコの爽やかな挨拶中も床が血濡れていてちょっとおもしろかった。血飛沫を汚れた新聞の山で表現したのは秀逸だったし、臓器や死人の人形も説得力があったな。日生劇場で内臓見たの初めてだよ!

 

題材について

1888年の事件だと知って、自分は思ったより最近だなと感じた。近ごろ、過去の事件・事故を扱う作品がそのできごとを“歴史”として見る境目がよく分からなくなってきている。JTRなんて、これまでも数々使われてきた題材だとは分かっているけれど、実在したフェミサイドであることには変わりないんだよなぁ。そういった題材を下敷きにした作品が、事実に対してどう向き合って表現しているかということは視点の一つとして考えていきたい。