記憶が保てるように

主に舞台や本、映画などエンタメと日常の話

最近読んだ本/2021.6-7

 ちょい久しぶりの記録になってしまった。覚えているものだけでも残しておく。

 

 ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50/福田里香

進撃のオタクからよく名前を聞く(諫山先生が作品に取り入れているという)ので、気になって読んだ。フィクションにおける食べものを使ったフード演出、“フード理論”について書かれている。正直、内容そのものはコア層向けというより、誰もが理解できるザ・王道、まさにステレオタイプ……なんだけど、なんとなーく感じていたことが体系的にまとめられている気持ちよさがあったり、そういう王道の元ネタ・根拠を丁寧に解説してくれているという意味で入門書としてはよいと思う。創作をする人なら、基礎を知ってこそ応用できるという捉え方もできるかも。もう少し踏み込んだ話も知りたかったけれども。

『進撃の巨人』はなぜ人間を食べ、吐くのか? 作者・諫山創が明かす (2014年10月5日) - エキサイトニュース

 
消えた駅名―駅名改称の裏に隠された謎と秘密/今尾恵介

ちょっと胡散臭さがあるところに惹かれた。笑 日本全国の駅名の改称およびその理由について記述されているのだが、章別の構成ではなく1駅1ページというリズムで延々語られるためなんか辞典感が強い。やはり関東の駅は情報が厚くてさすがのコンテンツ力。

 

 水都 東京――地形と歴史で読みとく下町・山の手・郊外/陣内秀信

 なるほど都市開発ジャンル界隈の河川特化オタが書いた本……!だという理解。笑 2020年の出版なので割と最近の話も出てくる。「谷、窪、沢、池が含まれる地名は盆地や谷地形であることが多い」「谷の存在を示唆する地名を“スリバチコード”と呼ぶ」みたいなくだりが最高にキマっててよかった。スリバチコードかっこいい。あ〜だから渋谷もスリバチで周囲は坂なんだな〜とか、ここもここも昔は川だったんだな〜という、東京の新しい楽しみ方ができるようになれておもしろい。見慣れた景色の下に血脈が……!!という壮大な気持ちになります。

都市開発界隈って、都市空間、川、地形(凹凸)、歴史、地質とか、思った以上に複合的な要素からなる、というか好みが細分化されてるジャンルだな〜ということが分かってきた。まだ顔と名前一致してないアイドルグループのメンバー一覧を見てるような気分。

 

京都市開発物語/越沢明

こちらはなかなか古くて味がありますが、都市開発史の全体像や流れが分かりやすくて教科書的ないい本だった。都市開発の大きな転機は、太平洋戦争・関東大震災・64年五輪なんだなと納得。都内に住んでいても日々せわしなく街の景色が変わっていくように思うけれど、自分がこれまで気づかなかっただけで、開発の痕跡は消えることなくその土地に残っているんだな〜(建物の場合は全く変わってしまうことが多いけれど、土や川や地形にはオリジナルの面影を探すことができる!)。

にわかだけど、こういう系統の本を何冊か読んでいくと、人が集まる場所は一生派手にいじくられまくる運命なのだなと……。計画者もいずれ死んでいくからその時代の都市の形を最後まで見届けられないわけで(そもそも最後なんてないけど)、誰にも制御できない時代の大きなうねりに思いを馳せるしかねえ。

 

あたしたちよくやってる/山内マリコ  

 短編とエッセイが一冊の中でミックスされているのが新鮮。どれも短いからさくさく読めた。

男の子に迎えに来てほしいんじゃなくて、魂の片割れだった親友に、迎えに来て欲しかったのだ。(中略)その時期が来れば友だちはどこかに退場し、いちばん親密な他人のポジションは男性に取って代わられる運命にある。

ギャァ……と胸を押さえた。こんなに失恋に近い気持ちってある?パブリックな場では言えないけど本の中で出会った言葉だから素直に共感できたり、どこか人には言いにくい感情が吐露できたような感覚があって、とにかく女の人生を思う一冊だった。

 

スター/朝井リョウ 

新刊『正欲』の後に追いかけて読んだ。コンテンツの激流の中に立っている、まさに我々の話。もし自分なら、小説でここまでリアルタイム性の強い話をやるのは怖いな。朝井作品はいつも今!読んでる!お前!に問いかけてくるので特有の苦しさが残る。

朝井さんの書く本は、フィクションであるけれどもどこか現代論に近いものを感じる。過去作で描いてきた就活、アイドル、ファンダム、セクシュアリティ……いずれの題材も今生きる自分(たち世代や共通の趣味・指向を持つ人)と距離の近しい話だからこそ、ファーストタッチでぐっと興味を引かれる。けれども、現実で経験したことを、現実と限りなく近い形で読んでいるようなしんどさも同時にある。これは小説に何を求めるか、という部分だよな~。

あとは、著者のパーソナリティを知りすぎていることが多分本業を楽しむ上でノイズになっていてすまない。。オタクのジレンマ。すごく本人が好きだからこそ、本業に触れているときその記憶を持ち込むのはやっぱり失礼ですよね?という。でもまたラジオのレギュラーを持ったら聴くと思う。めんどくさいですね。笑

 

兎の森(1)(2)/苑生

誰かのはてぶろを読んでるときに目に入って気になり、ジャケ買いしたBL。家庭環境が理由で性にトラウマを抱える受けと、一途な攻めの幼なじみ本。写実的で美しい絵とシリアスかつ繊細なストーリーがよく合っている。漫画の画作り、演出の仕方がうまくて引き込まれます。セクシャルなことに限らず、抑圧から生じる反動や歪みって本当に怖いよね〜〜。

 

 

活字多めのラインナップになってしまった。わたしは多分、玄米を30回噛んでから食べるみたいな本の読み方しかできなくてw、世の人間はなんでそんな早いんだ〜というコンプを抱えている。あと在宅勤務ばかりになると移動時間がなくて読書しにくい、という話を人とした。自分は専ら外で本を読むタイプ(家だと集中できない)だけど、今はそうも言っていられないしな〜。

 

qooml.hatenablog.com

藤本タツキ「ルックバック」読んだ日

ルックバックを読んだ。感想じゃなく、ただの日記です。

 

たった一日、すさまじい勢いと早さで、これだけたくさんの人に言及されるものなんだな。わたしは朝寝起きで読んだ。読み終わって、ジャンプラのコメント欄を少しだけ見た。ベッドの上で、7月の半ばってこういう気温だったなあの頃も、と鮮明に2年前の感覚がおりてきた。そんであー起きなきゃと思う自分の体の重さと、ルックバックの世界の中の重力がなんか同じに感じて、すごく具合が悪くなった。気持ち悪い。涙出ながら起きた。何か朝ごはん作ろうと冷蔵庫を開けたけど、なまものや米を見たら喉がひゅっと閉じて、なんとなく口の中も酸っぱくなって、気持ち悪い。こりゃ無理だなと思った。どうにもきつい。からっぽなメンタルで家で仕事しているうちに18時くらいになって、やっと体がいつもの感じに戻ってきた。一日、引きずって、考えていた。とにかく気が消沈していた。

色んな声の集合体がうねりを生んで、何かねじまがっていくのは気持ちの悪いことだなと、朝から夜になって変わっていく人の反応を見て思った。読んで心がぐらぐらに崩れた自分は確かにいるのだけど、作者の自由、読者の自由はやはりそれぞれ独立して存在している。が、自分の中で結論は出ていない(出版社についてはここで書かない)。

しかしあの暴力的なまでの迫真性に胸ぐらをつかまれて、生きるのが怖い。どうしてくれるんだ!この作品に暴力を見たのはあくまで自分の認識だけど、この作者は己の暴力性にとても自覚的な部分とそうでない部分がある、と思う。何かするも、しないも、すごく怖いな~。わたしは人生、やるんだろうか……

【喫茶店】押上・浅草の休日

仕事で家にいる頻度がコロナ禍初期よりも増えてきた。わたしはとにかく太陽に当たる時間と、なまの人間と話す時間なくしては心身の健康が保てない。もちろん常にとはいかないけれど、この二つをチャージできるときにしておかないと、と最近は意識している。先週はなんだか「いつもと違うことをしないと無理!!」感がすごくて、外はどう見ても悪天候だったけれど長傘片手に出かけてきた。

カド

押上で降車しておきながらソラマチの通りをスルーして、この日一番の目的だったカドに直行。住宅街でもないけれど特にお店もない、ちょっと無機質な道路脇をしばらく歩いていたら現れた。雨降りだからか、私がいる間はほぼずっと貸し切りだった。
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写真の通り、美術館さながらのクラシカルで静謐な美空間!なのに、コーヒーが一杯400円で会計時に驚いた。調べると、内観は志賀直哉の弟さんが手がけたものらしい(初代店長の知人なんだとか)。お手洗いを借りるとそれはもう建物の古さが分かるのだけど笑、これはとにかく保護されるべき空間だ。店長が軽快なしゃべりで「僕みたいなツイッター中毒は……」と話していて、店空間とのギャップに笑ってしまった。ああ、もっと近くにあったら頻繁に来るのになあ……。

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ロンドンのテート・ブリテンでたまたま観て好きになって以来、スマホのロック画面にしているジョン・シンガー・サージェントの絵が入口に掛けてあって、うれしびっくりだった。

こぐま

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続いてこちらも貸し切りだった。古民家を改装した一軒家のお店で、鎌倉とか札幌とか金沢とか松本にありそうな雰囲気笑。都内は土地が高いし古民家カフェって意外と少ないよね。小学校風の机と椅子がかわいい。店内は静か、店員さんも穏やかなお兄さんで落ち着いて過ごせた。

ロッジ赤石

少し歩いて浅草方面、「ロッジ赤石」へ。ここでこの日初めて自分以外のお客さんを見た笑。客層がまさに老若男女で、ファミリーからカップルから新聞読んでるおじいちゃんまで。地元の人が多かった。一人客が多い男性寄りの老舗喫茶、というよりは、温かみのある集いの場所という感じ。あだち充作品に出てきそうな雰囲気(伝わる?笑)。コーヒーはサイフォン。カウンターに座るとよく見える。
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壁には時計がたくさん

シーフードドリア、本当に美味しかったな~~!よく、懐かしの母の味なんて言うじゃないですか。わたしはよそんちの家庭の味つけがちょっっぴり苦手なのでその言葉を聞くと警戒してしまうんだけどw、ここの料理は良い意味でクセの強くない、“プロが作る家庭の味”だった。フードメニューの種類が多くて、目の前で運ばれていたできたてのカツ丼もすごくおいしそうだったな。。雨の中歩いた後だったので、ごはんが一層おいしく感じた。


浅草に来るときはいつも関東外からきた友達と一緒に、というパターンが多かったから、我欲のままに行きたいお店だけ行くのもたまには気楽でいいなと思った。(いや、普通に人に会いたいけど!)泊まりではないにせよ非日常感を味わえた一日だった。
この前友達が「コロナ禍以前がすべて輝かしい青春時代に思えるほど遠い」と言っていて、少し笑ったけど悲しい哉同意した。6月は予定していた『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロイリュージョン~復讐のアバンチュール~』(ここまでひと息)が全公演中止になってしまったので、舞台も現場なし。仕方のないことだけど、去年の中止分を取り返す公演だっただけに、思いのほかジメジメうじうじと引きずってしまっている。関東の梅雨明けはいつかな。