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はじめまして、ミュージカル「モーツァルト(Mozart)!」

 

6月、帝国劇場でミュージカル「モーツァルト!」初見キメたぞ〜!

 

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モーツァルトや作品についてあまり知識をいれずに観た感想としては、想像していたよりもずっと現代的でわかりやすくて共感性のある話だと思った。

夢を追いかけて都会に引っ越したい主人公、それに猛反対する父親、主人公が反発して家を出たはいいものの、仕事が上手くいなかくて出戻り…とか、ざっくり見ると、上京する若者を主人公にした日本のトレンディドラマっぽくて不思議な親近感が。笑

観ていて力むことなく、いい意味ですんなり世界に馴染めた感じです。

 

コロレド大司教との対立や作曲家としての出世、コンスタンツェとのロマンスといった入り込みやすい王道の要素もよかったな〜。

楽家としての階段を駆け上がる展開には少年漫画的な爽快感があったし、恋愛要素があることでキャラクターの人間性がぐっと深みを増す。異なる柱があることで緩急がついて、バランスもとれてた。

あとコロレドを記号的な悪役にするんじゃなくて、実は彼もヴォルフガングの才能の理解者でもある、という演出が憎いな〜と思いました。

 

物語の印象と同じく、音楽やセット、衣装*1 なども現代風に仕上がっていた気がします。

個人的に東宝ミュージカルと聞いてイメージする「古典」「耽美」「格式高い」世界観を保ちつつも重苦しくなりすぎない、とっつきやすさを感じました。 

 

ヴォルフガングという人物

 当たり前といえば当たり前なんだけど、「M!」を好きになるか否かってヴォルフガングを好きになれるかとほぼイコールでは?と思った。というのも、私がこのミュージカルに心を許したのは、おそらく彼を好きになれたから!

彼を観客をつき放すくらいの圧倒的天才として見せることもできたと思うんだけど、本作ではそういう人として彼を描いていないのが特徴の一つかなと思います(もちろん多かれ少なかれ歴史的な資料に基づいたキャラクターだとは思うのですが)。

むしろ、音楽以外の「できなさ」を強調することで、より音楽的才能を強調するようなつくりにしているように感じました。得意分野に能力全振りで生活力0の天才クリエイター、って感じ。

 

ヴォルフが「自分には才能があるんだ!」「やりたいことしかやりたくない!」「そんな自分を受け入れて愛して!」という欲望全開なのに不思議と不快感がないのは、音楽に対する純粋さの根っこにキラキラした少年性があるからだと思った。

父親からの愛情に気づくことができずに嘆き歌う『何故愛せないの?』は切実でぐっときたな…。愛を欲しがる子どもの丸裸の心が、傷だらけになっているのが目に見えるようで、悲しくて。

 

 

父と息子

この作品を観て一番深く心に残ったのはこの父子の関係性です。作品のテーマの一つもここにあるかなと。

ヴォルフとレオポルトの、お互いを大切に思っているのにそのことに気づけない不器用で頑固なさまがもどかしく、見ていて苦しかった…。

父親からすると、奔放で自分勝手で無鉄砲な息子が心配で心配で、自分の手元に置いておきたくて仕方がないんですよね。一方息子からすると、何をするにも父に頭ごなしに否定され、自分のやることを応援してもらえず、苛立ちと深い悲しさがあって。

 

神童とその子を育てた父といえど、どこにでもいる素直になれない父子。それがとにかく愛おしい。心から愛する父親にこそ夢を応援してほしかった・愛してほしかったと思うヴォルフの気持ちには共感できる。

一方で、まだ父の気持ちを想像できない彼を幼いなあとも思うんだけど、それがあどけなさであり人間らしさであり、魅力に変えてしまうのが古川ヴォルフのずるいところ。

市村正親さんが演じるレオポルトは、厳格ながらも息子への深い愛情が感じられます。愛すればこそ子どもの心を縛ってしまう、まるで日本の古き頑固親父。はたから見るとお互いもっと歩み寄ればいいじゃんって思うんだけど笑、そうは素直になれないのが親子なんですよね…。天才も人の子だ〜。

  

主要キャストについて

・古川雄大/ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト

実は初めて舞台で拝見した古川くん。

古川くんのヴォルフガングは、なんというか許されてしまう系の愛きょうに溢れてた…。「(音楽的才能を除くと)派天候で決して器用ではなく、でもどこか人を惹きつけてしまう華のある人物」として説得力がありすぎ。ヒモ性とカリスマ性のハイブリッド。笑

歌声はこねくりまわす感じのクセがなく真っ直ぐ。そしてどこか高貴な雰囲気をもっていて、「好きな声の人だ…!」と思いました。よく伸びる高音が心地よかった。あと、ラストにかけてどんどん歌のボルテージが上がっていってすごかったんだけど、それも物語上の流れで計算されてそうなっているような気がして、聴いてて鳥肌が立った。ガンギマリな感じが。東京公演折り返しの頃に観たので少し喉の疲れもあったかな?というときもあったけど、それも含めて、段々と狂気じみていくヴォルフのしんどさととシンクロしてた感じ。

 

平野綾/コンスタンツェ

平野綾さんのコンスタンツェ、可愛らしさや優しさだけじゃなくて、怒りや悲しみ、嫉妬や苛立ちとかの棘さえも艶やかな美しさに昇華させててよかった。

舞台を観てるとこれ演じるの楽しそうだな~と思う役があるんだけど、この作品でそう感じたのがコンス。ヴォルフが自分のしたいことを突き通す開放的な人柄であるのに対して、彼女はいつも内にフラストレーションを抱えているイメージ。好きなタイプのヒロイン。

個人的に対照的な女性像として存在しているのが、ヴォルフのお姉さんナンネールなのかなと。和音美桜さん、鈴が転がるような可愛らしくて艶のある声で素敵だったな〜…。コンスとは違う艶感。コンスは紫で、ナンネールは白のイメージ。

 

香寿たつき/ヴァルトシュテッテン男爵夫人

香寿たつきさんの歌う『星の降る金』を聴けただけでもう、この作品を観られてよかったと、本当に本当に思いました…。

この曲のメッセージって言ってしまえば”可愛い子には旅をさせよ”っていうシンプルなものだと思うんだけど、それがものすご〜く泣ける。作中で一番好きな曲になりました。

家族三人を包み込むように諭し歌う女神・男爵夫人だけを見ていたいのに、父子もまた繊細な演技をしていて、どちらも見たくて目が足りなかった!

 

楽家モーツァルトのミュージカルとして

楽家を題材にした話ではあるけど、彼の手がけた音楽をフューチャーするということはなく、あくまで彼という「人」であり「生涯」を描いたお話でした。この1本の作品がまるっと彼の人生そのものだから、ああいうラストになるのかな〜と。

これまで彼の作曲したオペラに何本か触れていたので、あ~モーツァルトってこんな人っぽいよなあwという楽しみ方もできたのが、個人的におもしろかったです。笑

 

それにしても楽曲が素晴らしいですよね…。個人的にモーツァルトの曲って一度聴いたらめちゃくちゃ”まわる”印象があって、(作曲家は違えど)「M!」の曲でも同じ現象が起きてるのがおもしろかったな〜。

有名な『僕こそ音楽』とかは、この作品を観る前になんとなく耳にしていた程度でもすぐに覚えてしまったし、他にも『影から逃れて』『ダンスはやめられない』『星の降る金』などなど、メロディーラインが印象的な曲が多いなあと。

 

「この1曲を聴くためにもう一度観たい」と思わせるような、粒ぞろいの名曲をもっている「M!」はやはり強い。観てよかったです!

 

 

 

 

 

*1:セットは巨大なピアノ、五線譜、音符を模したものなど、「音楽」を表現した抽象的でポップな雰囲気。音楽はドラムを使った曲も多くロック調の雰囲気のものも。衣装はスカジャン、ジーンズ、古着っぽいスカートとかが印象的だった