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小説『Red』を読んで 島本理生さんのこと

 

島本理生さん著『Red』を読んだ。

 

Red (中公文庫)

Red (中公文庫)

 

 

ある日、王様のブランチを見ていたら、作家の対談企画で西加奈子さんが島本理生さんの『あられもない祈り』のことを「この作品があるなら自分はもう恋愛小説は書かない」と紹介していたのが心に残って、島本さんの作品を読みたいなーと思っていた。

 

そんなとき、書店で『Red』を見かけて購入。わたしは読書スピードが遅いほうなんだけど、『Red』は休日と平日一日ずつの計二日くらいで読み終わってしまった……。(大の字)言ってしまえば不倫の話で性描写も多いのに、全体を通して昼ドラ的などろっと感やハイカロリーさを感じることがなかったのが不思議。

 

島本さんの描く人間の姿は、登場人物すべてに対して誇張も偏見もなく、リアルで緻密。人がもつ多面性をごく自然に描いているので、誰もが優しさやずるさを内包した一人の人間であることをしみじみ感じるんだけど、その人を見つめる”平等性”のようなものがすごく好きだなーと思った。個人的に作家の文体の合う/合わないは会話文よりも地の文で決まると思っていて、島本さんの書く地の文は、柔らかい雰囲気なんだけどポエティックすぎない、クールさがあってそれもまた好きでした。あと、以前王様のブランチで(※ヘビーウォッチャー)朝井リョウさんが「肉体的な描写になるほど語彙のなさを感じるけど、島本さんの表現力はすごい」というような話をしていたんだけど、読んでいて「あああなるほど……」とわかりみが強かったです。表現が多彩である一方、島本さんは、言葉を尽くさない人なんだなとも思った。説明はあまり多くなく、かつ明言していないのにメチャクチャ情景が伝わるので、すごい。文章がうまいってこういうことなんだなーーと思わずシンプルな感想にたどりつく。島本さんの文体が好きだ。

 

読み終わったいま、ひたすらもの悲しい余韻が続いている……。悲しくはあるけれど、塔子も、鞍田さんも、真君も、それぞれがそれぞれの感情を抱えながら、たしかに前に進んだんだなと思える終わりだった。

 

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